ニュートンと落ちないリンゴ

フランスの哲学者ボルテールの著書”Essay on Epic Poetry”(1727年発行)の中に、
万有引力の法則を発見したニュートンについて書かれた記述があります。

その内容とは、ニュートンの姪に聞いた話として、
ニュートンが庭仕事をしている時に、
リンゴの木からリンゴの果実が落ちるのを見て、
重力に関する発想(アイディア)を見出したというものです。

この逸話はその後、様々な解釈が付けられながらも、
引力という概念を理解するのに、大変分かりやすい例であったため、
伝聞として多くの人に語られることになります。

さて、話は現代の日本に戻るのですが、
1991年(平成3年)9月28日、
台風19号が風速50m以上の勢力を保ったまま、
青森県を襲いました。

この台風は九州でも農作物に甚大な被害を与えましたが、
青森県においても、リンゴの木に大きな被害を与えました。

この台風の影響で収穫前のリンゴの9割が落ち、
栽培農家は途方に暮れました。

しかし、若いリンゴ農園経営者から
ユニークな提案が出されます。

それは発想の転換です。

9割のリンゴは落ちてしまったが、
残り1割のリンゴは落ちなかった。

つまり、暴風雨という困難にさらされながらも、
落ちなかったリンゴは、
困難にしぶとく、縁起が良いリンゴだという発想です。

早速、縁起物の落ちないリンゴは、
神社で販売されました。

ユニークなリンゴは、
新聞やテレビでも報道され、
全国的に有名にもなりました。

この落ちないりんごは、
1個1000円という高値で売られたのですが、
受験を控えた学生などの縁起物として
瞬く間に完売し、
落ちてしまったリンゴの売上げ分をも
カバーすることができました。

その後、落ちないリンゴの販売事業は法人化され、
主にインターネットを通じ、産地直送志向の顧客を対象に、
リンゴ販売を行なっています。


乳癌のリスクを減らすオリーブオイル

最新の医学研究において、
乳がんを治療する手段は未だ限られています。

また、乳がんを治療する薬の研究においても、
決定打はまだ現れていないのが現状です。

したがって、乳がんになる可能性を低くするような
防衛策に努めるというのが、
個人レベルでできる対策のひとつとなります。

ニューヨークのマウント・シナイ乳がんセンターの
ロスウェル博士が公開した報告によると、
バランスの取れた食生活と肥満体質にならないことが、
乳がん発症のリスクを減らすとしています。

そのひとつの方法が、
オリーブオイルを積極的に摂ることです。

オリーブオイルには、
酸化に対して抑制的に働く力を持つポリフェノールが豊富に含まれ、
過酸化物質を取り除き、動脈硬化の発生を抑制します。

エクストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルの苦い辛味であるオレウロペインは、
強力な抗酸化作用を示し、免疫系を強化します。

またオリーブオイル中のセコイリドイドなどの成分は、
ピロリ菌に対する強い抑制作用を示すという報告もあります。

他にもオリーブオイルに含まれるリグナン、セコイリドイドは、
腺癌のひとつである乳がん抑制に力を発揮するばかりでなく、
転移をも抑制することが分かってきています。

同博士が2014年に、3,500人以上の女性を調査したところ、
一日にオリーブオイル大さじ1.5杯以上を摂ったグループは、
マンモグラフィー検査において、
乳房密度(※1)が低下しているという結果を得ています。

乳腺密度の高い乳房は、密度の低い乳房と比べて、
乳房のX線で撮影した画像の読み取りや解釈が困難となる、
つまり乳がんを発見しづらくなります。

※1マンモグラフィー:乳がんを診断する方法のひとつで、乳腺・乳房専用のレントゲン撮影です。


日本発祥の実験器具

日本人が世界の発展にどの程度貢献したかという物差しの一つが
ノーベル賞の受賞者の数ではないでしょうか。

2015年9月現在で、22人が栄えあるノーベル賞を受けています。

その中でも自然科学系の受賞者は19名と圧倒的に多く、
物理学賞10名、科学賞7名、医学生理学賞2名となっています。

しかしノーベル賞の受賞者とはならなかったものの、
ペスト菌を発見した北里柴三郎、
黄熱病の解明に人生を捧げた野口英世をはじめ、
世界の発展のために貢献した科学者も少なくありません。

実験器具の分野でも、安全でユニークな器具が世界で使われています。

1920年代(大正時代)に東京都立駒込病院の院長であった
二木謙三が開発した実験器具は、
今でも世界中で使われています。

駒込ピペットというスポイトの一種です。

ほとんどの人が学生時代にこの名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。

1~20mlほどの液体を、ガラスの細管に吸い上げて
他の容器へはかり取る器具です。

スポイトの少し大きめの器具という位置づけの
駒込ピペットは、ガラス管の上3分の1ほどのところに、
誤使用を防ぐために設けられた吸引調整用の膨らみがあります。

現在の駒込ピペットは、吸い込み口に当たる部分に
ゴム製の乳頭がついていますが、
もともとピペットは液体を口で吸い上げる器具だったため、
伝染病患者などから採取した検体を吸うには、危険を伴いました。

そこで、ガラス管の途中に
安全球と呼ばれるガラス管の膨らみを付ることで、
誤飲を防ぐことができるように改良したのです。

駒込ピペットは、その後世界中で使用されるようになり、
英語でも日本語そのままの名称である「Komagome Pipette」と呼ばれています。

安全を考慮した実験器具として、教育現場でも広く使われています。


ミトコンドリア・イブ

アメリカ合衆国の国勢調査局と国連データから推計すると、
2015年9月1日現在の世界の総人口は、
およそ72億7650万人と考えられます。

現在の情勢では1年間で7千万人が
増えるという試算も出されています。

人口増加によってその人達の生命を守るための食料を
どのように確保できるかについては、
別のタイトルとしてお話しするにしても、
今回は時間を逆上る話です。

人口が増えるという事実を裏返してみると、
時間を逆上ることで人口は少なくなります。

例えれば、8人の玄孫(やしゃご)は、
4人の孫から生まれ、
その孫は2人の子供から生まれ、
その子供は1人の母から生まれたというようなお話です。

もちろん、子供を生むための夫は存在するのですが、
いずれにしてもこの数式をどんどん逆上ると最後には、
1人の母に辿り着くということになります。

旧約聖書の『創世記』に記された、
最初の人間であり、母でもあるイブです。

イギリスの遺伝子研究者であるブライアン・サイクスは、
ヒトの遺伝子の中にあるミトコンドリア(※1)のDNAが、
母親を通してのみ遺伝することに着目し、
このミトコンドリア遺伝子を追跡することで、
地球上の母達の血筋を逆上る研究を行ないました。

その結果、現在の世界中の民は、
たった一人の共通の母=ミトコンドリア・イブに
つながるという考えに至ります。(※2)

この学説を認めるか否かは、
哲学的な要因も関わるため、
賛否両論別れるのでしょう。

しかし、人類は皆兄弟であるのだから、
皆は仲良くしようという考えは、大いに腑に落ちます。

※1 ミトコンドリア
人の細胞に含まれる構造物のひとつで、
細胞の中で呼吸をしてエネルギーを生産しています。
ミトコンドリアは一つの細胞に数十から数万という
大変な数が含まれています。
ミトコンドリアが、血液によって体内の細胞に運ばれた酸素を使って
糖や脂肪を燃やすことで、ヒトは体温を保ち、活動ができます。

※2 参考資料:イヴの七人の娘たち (ヴィレッジブックス N サ 1-1)
世界中の人々は、共通のDNAでつながった近い関係で、
人々をつなぐ遺伝子の絆があきらかになれば、
民族差別や偏見、争いや攻撃をなくすことができる
という考えが述べられている科学系ノンフィクションです。


7番目の月だった9番目の月

歴史に名を残した人は、
今の世にあっても、その功績や名前が覚えられています。

聖徳太子、源頼朝、徳川家康、坂本龍馬などなど
枚挙にいとまがありません。

世界に目を転じてみれば、
文字伝承の記録が残る有史において、
クレオパトラ、ソクラテス、ガリレオ、ナポレオンなど
数々の伝説とともに今でも話題にのぼります。

その中でも毎年必ず、
言葉にせずにはいられない人物がいます。

それは、ローマ時代の皇帝であった
ユリウス・カエサル(Julius Caesar)と
オクタヴィア・アウグストゥス(Octavianus Augustus)です。

紀元前49年頃、
ローマ時代の政治家であり軍人でもあったユリウス・カエサルは、
エジプトの数学者ソシゲネスの助言により、
1年を365.25日とし、4年に1回のうるう年を置くことにしました。

このユリウス暦を採用する際に、
ユリウスの功績を讃え、
ローマ元老院が7番目の月に彼の名前を取り
「Julius → July」とします。

紀元前44年、カエサルが暗殺された後、
後継者として指名されたアウグストゥスは、
先代を継承し、ユリウス暦をより正確なものに改めます。

その変更に加える際に、カエサルを習い、
8番目の月に自分の名前を付け、
「Augustus → August」とします。

このふたりのローマ人が歴史上に残した功罪の解釈は様々あるとしても、
7番目の月という意味の「 September」は結果的に2つズレて、
9番目の月になってしまいました。

なんというワガママなローマ時代の支配者たちでしょう。

ユリウス暦は、
1582年、ローマ教皇グレゴリウス13世が制定したグレゴリオ暦へと移りましたが、
二人の名前は今もなお、私たちの暮らしの中に存在します。

明後日には、かつて「7番目の月」という意味のSeptember=9月が始まります。