美しい身だしなみという漢字

「名は体を表す」とは、
付けられた名前が、
その物や人の性質や実体を表すということです。

同じような言葉に
「体は心を表す」という言葉もあります。

心得や心の持ち方が、
姿勢やしぐさ、内面から発せられる雰囲気や容姿に
表れるということでしょう。

漢字にもその造りが、
心の持ちようを表している、
あるいはそのような形になることを望むという想いが
込められている漢字があります。

子供の頃から社会での守るべきことや作法を教えることを
「しつけ」と言います。

箸の持ち方、お茶の飲み方から始まり、
初対面の人と会う時のあいさつなど、
暮らしの中の全ての礼儀や作法を教えることです。

昔から「しつけ」とは、
「しつける(しぐさや言葉を行ない慣れる)」、
あるいは「し続ける(行い続ける)」に通じると言われてきました。

学校から帰った子供たちが、
玄関でクツを揃えずに家の中へ入るときに、
「ちゃんとクツを揃えてから上がりなさい。」
と叱るお母さんの行為は、理解できるにしても、
しつけという面からはよろしくないと言えます。

しつけの中での解決法は、
脱ぎ捨てたクツを何も言わずに母親が、
自ら並べなおすことを続けることです。

これがしつけとは、到底信じられませんが、
並べ直すことの繰り返しによって、
子供たちは、母の姿を学んでいくのです。

母親が乱雑に並んだクツを喜んで並べる姿を見ることで、
子供たちは、整理整頓された玄関が、
気持ちの良いものだと理解できるようになり、
自ら進んでクツを並べるようになるまで、
辛抱強くクツを並べることを「し続ける」ことが
回り道のようで早道なのです。

「なにを悠長な…。」というお言葉が、
聞こえてきそうな話ですが、
漢字にその真実が見られます。

しつけという言葉を漢字で書くと「躾」となります。

「身を美しくする」ことが「しつけ」とは、
なんとも先人が残した漢字には、
落語に出てくる長屋のご隠居さんを彷彿とさせる、
粋な姿を感じます。

さてこのクツの揃え方の躾が真実か否かは、
実践して明らかにするしかありません。

躾る側の胆力を試されることなりますが…、
さて真偽は如何に。


衣替えで気をつけたいこと

10月になって朝晩に肌寒さを感じると、
衣替えを本格的に行う決心がつきます。

タンスや収納ケース、あるいはクローゼットから
秋冬用の衣類を取り出すのは簡単ですが、
夏用の衣類を収納するのは気が重いという方は
少なくないはずです。

面倒臭さが先行して、
どーんと衣装ケースに放り込みたくなりますが、
来年のことを考えれば、
やはりちゃんとした収納を心掛けなければなりません。

収納する時に一番気をつけたいのが、
シミや虫食い対策です。

特に夏の衣類は、
充分に汚れを落として収納しなければ、
来年、フタを開けてみると取り返しの付かない状況が…、
ということにもなりかねません。

対策の第一としては、
汚れを落とした後、
よく乾燥させてから収納するという点でしょう。

虫食い対策としては、
防虫剤と一緒に保管するということになりますが、
気をつけなければならない点があります。

防虫剤の成分は空気より重いので、
上から下に広がります。

したがって、衣類を重ねて収納するのであれば、
衣類の上に置くのがベストです。

防虫効果を最大限にするのであれば、
詰め込み過ぎはよくありません。

ぎゅうぎゅう詰めの状態では、
防虫成分が行き渡りにくく、
効果も半減してしまいます。

タンスや収納ケースの8分目くらいまでを
目安にします。

吊り下げるタイプの防虫剤は、
防虫成分が空気中に蒸散するようになっていますので、
等間隔にかけると満遍なく広がり、効果的です。

長い間かけっぱなしの防虫剤は、
効力が無くなっているものもありますので、
使用し始めた日を防虫剤に記しておくと、
いつ使い始めたかがわかるので、
交換時期の目安になります。

衣類が完全に乾いていない状態で収納すると
カビの原因となってしまうので、
絶対にやめましょう。

クリーニング店から戻った衣類も、
スチームアイロンなどの湿気を含んでいる場合がありますので、
一度クリーング店でかけられたビニール袋をはずして陰干しした後に、
しっかり乾燥してから収納することにも心がけて下さい。


嬉しいという漢字

このコラムは日本語で書かれています。

日本語は、漢字とひらがな、そしてカタカナで構成されています。

日本で生まれたひらがなは、「いろは」48文字、漢字に関しては数万を下りません。

漢字は紀元前17世紀頃に、占いの結果を書き記すために使用された
殷の甲骨文字から源を発していますが、その後中国で興隆した国々によって、
様々な意味や読みが加えられながら数を増やし、
朝鮮半島からやってきた渡来人や遣唐使たちによって日本へ伝えられたとされています。

数度にわたって伝えられた結果、同じ漢字でも二つの読み方が存在するようになり、
これは日本語を勉強する外国の人にとっては、かなり厄介な問題となっています。

例えば「正」の音読みは「しょう」あるいは「せい」です。

正月(しょうがつ)正解(せいかい)といった具合です。

また日本で独自に作られた漢字もあり、中国の人は知りません。

風が止まった状態を表す「凪」、山道の頂上を表す「峠」など、
「なるほど!」と納得する漢字もあります。

漢字は、ものの形を表す絵文字(象形文字)も多く、山や川という漢字は、
絵を文字にした基本形です。

また二つの意味を並べて表現する漢字もあります。

「好」という字は、女の人が子を抱いている様子から生まれたものです。

その様子を見る人は、きっと好ましい心になったからでしょう。

嬉しいの「嬉」は、女の人の横に喜ぶという字が並んでいます。

きっとこの漢字を発明した人は、
「うれしいという感情を表す文字はこれで決まりだ!」と、
後世の人達に伝えたかったのでしょう。

私達はこの文字をできるだけ多く、また先人の知恵に思いを馳せて、
感謝しながら使わなければならないのです。

女の人が喜ぶ時代ほど素敵な世はありません。


気遣いに見る人間の美しさ

春分前で日没もまだ早いこの時期は、暗くなった後には
気温もグッと下がるため、ついコートのポケットに
手を入れたまま背中も丸めがちに帰路を急ぎます。

帰宅ラッシュの博多駅は、冬の寒さのせいもあるのか、
皆足早に駅構内を歩いています。

夕刻のこのような時間帯に、友人と久しぶりに
待ち合わせをして、夕食を共にすることにしました。

私の友人Nは、海外赴任の経験も長い物腰の穏やかな紳士ですが、
折衝の際には、外国のビジネスマンも兜を脱ぐほど強引な手腕を
発揮する無頼派だと彼の同僚から聞いたことがあります。

ほぼ一年ぶりに会った彼は、多少白髪は増えたものの、
相変わらず染み渡るようないい笑顔で握手を求めてきます。

ひとしきり立ち話の後、博多駅前のスクランブル交差点を渡りながら、
私の近況を話していると、いきなり彼は踵(きびす)を返し、
渡り始めた方向へ戻りだしました。

突然の彼の不思議な行動に振り返ると、彼は和服姿の老婦人の手を取り、
介助しながら横断歩道を一緒に渡っています。

私は、既に交差点の反対側に渡りきっていましたので、
彼が戻るまで待つことにしました。

再び歩行者用信号が青になると、笑顔で小走りしながら渡ってきます。

私が「お知り合い?」と尋ねると、知らない婦人だとのこと。

聞けば、彼女の歩みでは交差点を渡り切る前に信号が赤になると思い、
彼女が無事に渡り切るまで共連れで渡ったとのことでした。

彼はその老婦人が反対側から渡り始めた時点でその状況を把握し、
危険を予測して咄嗟(とっさ)にその行動に出たのでしょう。

恥ずかしながら同じ状況にいたにも関わらず、それが見えていなかった
自分に恥じ入りましたし、彼の俯瞰で現状を把握する気配りの仕方に
関心もしました。

当たり前のことを意識もせずに行なう素敵な友人は、
格好良く眩しく見えました。

「なぁに、俺達より長く生きている先輩だもの、バックアップしなくちゃ。」

その日以来、私も気がけて通りの向こうで信号が青に変わるのを待つ人の中に、
人生の先輩を見つける「気がけ」をするようにしました。

まだ実践のチャンスこそありませんが、交差点で私が役に立つ日が来ても、
さり気なく手を差し伸べることができるよう心がけています。

人の美しさとは、外見ばかりでなく、
内面からも醸(かも)し出されるものです。

健全なる美しさは、健全なる精神に宿る…でしょうか。