花も実もある話
他の木の花が
ようやくつぼみを膨らませ始めて来る頃、
いち早く咲いて、
春の訪れを知らせてくれるのが梅の花です。
皆さんの近所にも、
その馥郁(ふくいく)※1とした香りを漂わせている場所が
あるでしょう。
庭の1本の木であることも多いでしょうが、
全国各地の梅の名所には
数千本を超える数の木が植えられている
『梅林』『梅園』と呼ばれる場所が少なくありません。
このように梅が広い土地に
数多く植えられているのには、
その歴史と深い関わりがあります。
梅は、奈良時代に中国から伝来したものですが、
中国では、花を観賞するよりも、
その実を漢方薬の鳥梅や、
塩漬けにして利用していました。
日本に入ってきた梅は、
まずその可憐な花が注目され、
愛でられていましたが、
平安時代には、
梅干しが作られ、
鎌倉時代には、
茶菓子として供された記録が残っています。
梅干しの効用は、
現代でも広く知られている所ですが、
戦国時代にも、食欲を促進し、
息切れを防止するものとして、
食されていたようです。
江戸時代になると、
梅干しが庶民の食べ物として広く普及し、
多くの藩が梅の栽培や梅干しづくりを奨励し、
保護政策をとりました。
徳川御三家として知られる、
水戸藩・紀州藩・尾張藩も同様で、
中でも、紀州・和歌山県は
『南高梅』というブランド梅を初めてとして、
今も梅の収穫量日本一を誇っていますし、
水戸の偕楽園は、
100種3000本の梅を見ようと
毎年全国から訪れる多くの観光客で賑わいます。
現代では、
観賞を目的として品種改良された花梅、
実を採ることを目的とした実梅、
合わせてわせて300種以上の梅の木があると
言われていますが、
いずれにしても、私たち日本人にとって、
梅は、長い間、身近で、愛すべき存在だったのですね。
※1馥郁(ふくいく):よい香りがただよっているさま。