2 / 212

冷たい甘酒で暑気払い

夏の正念場とも言える8月が始まりました。

高い気温は、体の調子を狂わせる大きな原因ですが、
夏の太平洋高気圧が、
湿り気をタップリと含んだ空気を南から運んできます。

湿度が高くなると、汗の蒸発による体温調節が妨げられため、
内部に熱がこもり、代謝機能がパワーダウンするため、
体は、高温・多湿のダブルダメージを受けることになります。

その結果、体の動きが鈍くなって
食欲不振に陥り、夏バテになってしまいます。

江戸時代には、食欲が落ちるこの暑い時期に、
体力回復のために甘酒が飲まれていました。

現代の日本人にとって甘酒は、
寒い冬や端午の節句に飲むものという概念がありますが、
江戸時代は、「甘い、甘い、あ~ま~ざ~け」と
売り歩く甘酒売の行商人が、夏の風物詩だったそうです。

したがって、俳句や短歌の世界では
「甘酒」は夏の季語になっています。

「甘酒」とは、炊いた米と麹を発酵させたもので、
米のでんぷん質が糖化されているため、
ブドウ糖が20%以上含まれる甘い飲み物です。

アルコール分は含まれていませんが、
日本酒を作る工程と同じですから、
「甘酒」という名がついています。

甘酒は醗酵によって、
ブドウ糖やビタミンB1、B2、B6、必須アミノ酸など
に組成され、また醗酵食品としての腸内環境を
整える性質も備えます。

江戸時代には経験的に、消化が良く栄養素を豊富に含む甘酒が、
夏バテ対策の栄養飲料として飲まれていたのでしょう。

冷凍室で甘酒を凍らせれば、
ほどよい甘さとさわやかな酸味が楽しめる
シャリシャリ甘酒シャーベットになります。

しょうが汁を数滴垂らして、夏の味にアレンジすれば
ノンアルコールの栄養満点の「飲む点滴」にもなります。

蝉しぐれを聞きながら食べる甘酒シャーベットで
暑気払いはいかがでしょうか?


高嶺のビワ

♪♪ ビワはやさしい木の実だから 抱っこし合ってうれている
うすいにじあるろばさんの お耳みたいな葉のかげに ♪♪
(作詞:まどみちお 作曲:磯部俶)

これは、「ビワ」という童謡ですが、ご存知でしょうか?

私にとっては、遠い昔、NHKの「みんなのうた」で耳にして、
とても印象深い歌なのですが、残念ながら、
周囲にはこの歌を知っている人はあまりいません。

近所の庭にあるびわの木に、小さなビワの実が、
まさに歌詞の通り、抱っこし合ってなっているのを見かけました。

頭の中で、この歌が自然に流れて来ます。
『もう、ビワの季節になったのだなあ』と思いながら
スーパーへ行くと、そこにも、ビワが並んでいました。

思わず、手に取ろうとしたのですが…
6個パックで、646円(税込み)、一個100円以上!
値段が目に入ったとたんに、出かかった手は引っ込んでしまいました。

もう一度、目の前にあるビワをじっくり見直してみます。

その名前の由来である楽器の琵琶に似た丸みを帯びた形、
オレンジ色に近い黄色のやさしげな色。
なるほど、近所の庭で見たビワの実と比べると、一回りは大きく、
色も形も美しく整っていて、まるで別物です。

一体、プロのビワはどのように育てられているのでしょうか。

ビワは、他の果樹と違って、11月から1月の冬季に花を咲かせます。

そのため、寒害を受けやすく、
年間の平均気温が15度以上の温暖な地で栽培されます。

そこで、産地も限られ、全国一の生産量を誇る長崎県を筆頭に、
千葉、香川、和歌山、鹿児島、の5県で全国の約7割が占められています。

ビワは、生育旺盛で、たくさんの花をつけ、たくさんの実をつけますが、
そのままでは、実に栄養を取られて、枝葉が成長しないため、
摘蕾、摘花などにより着花制限をしなければなりません。

次に、果実の発育をよくするために、摘果が行われます。

ここでふるいにかけられ、残された実には、袋がかけられます。

そうすることで、擦れ傷や病害虫、雨や強い日光から守られます。

このように、大変な労力をかけて収穫されるビワの実ですが、
とても繊細で、ちょっとしたことで表面の産毛が取れたり、変色したりと傷みやすいのです。

その上、追熟することがなく、長期保存もできないので、
出回る時期もとても短いのです。

それだけ、季節性の高い果物だとも言えます。

こうなると、スーパーに並ぶ美しいビワの実が高いのも仕方がないと納得できますね。

スーパーの実には手が出なくても、ゼリーやジュース、お菓子など
加工品も多く生産されているので、
上品で優しいビワの美味をちょっと違った形で、
味わうことが出来ます。

また、ビワの葉や根、茎、枝、種などに薬効成分が多く含まれ、
病院や病人がいるところにビワの木が植えられていました。

事実、何千年も昔、ビワの木は『大薬王樹』と名付けられており、
奈良時代には、ビワが薬として用いられていた記録も残っていています。

その高い薬効性が、逆説的に物語られているのが興味深いですね。

現在も、健康商品として、ビワの葉のお茶やエッセンス、
種の焼酎漬けなどが生産されています。


味はイマイチでも栄養満点

周りを海に囲まれている日本では、
海の生き物を食材として使うことは
宿命と言っては大げさでしょうか。

しかも太平洋、日本海、オホーツク海、東シナ海など
様々な環境で育まれた海産物は、
それぞれ個性的で美味しいものばかりです。

黒潮、親潮に乗って日本近海にやってくる
高級魚のマグロやカツオ、季節を感じさせるサンマや
一年中近海で水揚げされる青魚のアジなど実に様々です。

季節によって魚の種類を区分けすることもできますが、
白身魚であるキスやヒラメ、
赤身魚のカツオやマグロという肉の色で
魚の種類を分けることもできます。

この肉の色の違いは、
それぞれの魚の暮らし方が
大きく関わっています。

カツオやマグロは、
長い時間、活発に遊泳するため、
赤筋と呼ばれる持久力のある筋肉が多く、
ヒラメなどの白身魚は、
瞬時に獲物に襲いかかったり、
逆に逃げることができる白筋が多いなど
それぞれの筋肉は特徴的です。

ところで赤身の魚にも白身の魚にも
血合肉と呼ばれる部位があります。

魚類特有の筋肉である血合肉は、
運動に必要な酸素であるミオグロビンという
色素蛋白質(赤黒い色の素)を補給し、
肝臓に似た働きもすることから
第二の肝臓ともいわれています。

血合肉は魚類特有の筋肉で、
赤黒く新鮮さを欠き、生臭さが強いため、
残念ながら捨てられる場合が多いです。

しかしその筋肉には、
グリコ-ゲンやビタミンB群、鉄分が多く含まれ、
捨てるにはもったいない部分です。

家庭で食べる際には、味付けを工夫することで、
お魚の元気の素をしっかりいただきましょう。


アサリの小さな身には栄養がぎっしり!

今年のゴールデンウィークは、もう終わってしまいましたが、
ゴールデンウィークの頃の風物詩の一つが潮干狩りですね。

「潮干狩り」は、春の季語にもなっています。

潮干狩りとは、潮の引いた干潟での貝採りを意味し、
場所によって、アサリ、タイラガイ、マテガイ、ハマグリ、蟹など、
様々な種類の海の幸が採取されます。

でも、何と言っても、潮干狩りと言えば、アサリです。

今のように、行楽の一つとして、
潮干狩りを人々が楽しむようになったのは、
江戸時代になってからのようですが、
アサリが食材として採られたのは、
縄文時代の遺跡である貝塚から
その貝殻が出土されたことから分かるように、
ずいぶんと長い歴史があります。

アサリを使った料理として、
味噌汁、酒蒸し、炊き込みご飯、バター焼き、
しぐれ煮、スパゲッティのボンゴレなど、
定番レシピがすぐに浮かんでくるのも、
アサリがとても身近な食材であるからこそでしょう。

最近では、真空パック詰めのものなど、
年中スーパーに出回っている感のあるアサリですが、
旬とされるのは、産卵を控えて、身が肥えている今の時期と秋です。

実は、このアサリ、とてもうれしい栄養成分をたくさん含んでいるのです。

まず第一に挙げたいのが、鉄分とビタミンB12。

これらは、血液の材料であるヘモグロビンを作るのに大事な成分なので、
ダイエット中の人や妊婦に多く見られる貧血の予防に役立ちます。

ビタミンB12は、植物性食品にはほとんど含まれず、
アサリの含有量は、様々な動物性食品の中でも、とても多いのです。

さらに、このビタミンB12には、
末梢神経や中枢神経の機能の維持・改善の働きがあり、
腰痛などの末梢神経障害や
睡眠障害の薬用作用としても利用されています。

その他、カルシウム、亜鉛、カリウム等のミネラルやタウリンも豊富です。

亜鉛は、細胞の成長や発育、皮膚の新陳代謝などに作用するので、
コラーゲンやヒアルロン酸などと同様に美容効果の高い成分です。

タウリンは、肝臓の機能を正常化する働きがあり、
疲労回復やむくみの改善、アルコールの分解などの効能が期待できます。

小さい身に、ぎっしりと栄養成分を含んでいるアサリ。

是非、旬の今、色々なレシピで味とともに、
その効能も堪能してはいかがでしょうか。


ほうれん草の旬は冬

調理に欠かせない基本的な野菜は、
一年中スーパーや地元の八百屋さんの店頭に
並べられています。

ハウス栽培のお陰で、
四季を気にすることなく
トマトやきゅうりを食べられることは
台所を預かる人にとっては、
とてもありがたいものです。

ハウス栽培は、
野菜を作りやすく病気にもかかりにくいため、
農家の方にとっては、
生産計画が作りやすく、
安定した収入が計算できるという
メリットがあります。

その点、
露地栽培(屋根、おおいがない畑で育てられている)の野菜は、
天候に左右され、
予測不能な事態も想定しなければならないため大変です。

露地栽培の野菜は、
旬も短く、生産者にとっては扱いにくいのですが、
春夏秋冬の気候に合わせて成長するため、
栄養素という点では、
ハウス栽培の野菜に勝ります。

たとえば、
ほうれん草には、
ビタミンB1、B2、C、鉄、カルシウム、マグネシウム、
銅、マンガン、カロチンといった
多くの栄養素が含まれている野菜の優等生です。

鉄とその吸収を高めるビタミンCがセットで入っているので、
相乗効果が期待できます。

含まれているビタミンCを比較すると、
冬に栽培される露地ほうれん草は、
ハウス栽培の夏ほうれん草の
3倍にもなります。

ほうれん草には、
結石の原因となるシュウ酸が多く含まれている
と言われますが、
茎が柔らかくなるまで茹でて
水にされせば、除くことができます。

ほうれん草に含まれるカロチンは、
皮膚や粘膜を健康に保つ働きがあるので
鍋料理の食材として加えれば、一挙両得です。

また、根元の赤い部分にはマンガンが含まれているので、
捨ててしまわずにできるだけ食べるようにしましょう。


2 / 212