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おいしく米を噛む

「太陽」と呼ばれる体のツボがあります。

食べ物を噛むために口を動かした時、
筋肉が動くところです。

いわゆる「こめかみ」辺りです。

目が疲れた時や頭痛がする時に
このこめかみを気持ち良い程度の強さで押すと、
症状が和らいだという経験をされた方も
少なくないでしょう。

こめかみのツボ=太陽には、
「眼医者ごろし」という異名もあり、
昔から眼の疲れの予防と改善に
効果があると言われています。

こめかみという呼び方は、
生米を固いまま食べていた古代に、
米を噛む時にこの場所がよく動くことから
そのような呼び名になったと伝えられています。

今では、
ふっくらと炊いたお米を食べることが標準となったため、
お米をよく噛んで食べるという機会は少なくなりました。

ましてや秋に収穫されたばかりの新米は、
噛まずに飲み込みたいほど美味しいものです。

一方、旨いということを言い表す時に、
「噛めば噛むほど味が出る」という表現があります。

米の成分の8割ぐらいは、でんぷんです。

精米された状態の白米のでんぷんは、
炊くことで消化のよいでんぷんに変化します。

このでんぷんは、噛むことで
口の中に分泌される唾液に含まれる消化酵素によって、
マルトース、甘い麦芽糖に分解されます。

つまり、噛めば噛むほど甘く美味しくなるというわけです。

古来から食事の時の行儀として、
ひとくち食べ物を口に入れたら、
30回は噛みなさいと言われてきました。

しかし最近では、柔らかい食べ物が多くなったため、
噛む回数が50年くらい前に比べて、
半分に減ってしまったといわれています。(※1)

よく噛んで食べることは、
お米の味がより美味しくなるだけでなく、
脳の働きを活発にする、 歯の病気を防ぐ、
胃腸の働きをよくするなど、体にとってよい効果があります。

先人の伝えには確かに意味があるということです。

よく噛むことで、この時期しか味わえない新米を
より健康的に美味しく味わって下さい。

※1 噛む回数について
新潟農学部応用生物化科 大坪研一教授の情報による。


レンコンのお宝度

熊本県の特産品として有名な辛子レンコンは、
熊本のゆるキャラである「くまモン」に負けず劣らずの
全国区の人気おみやげです。

この辛子レンコンのレシピ誕生は、
歴史が古く、数百年前まで遡ります。

細川藩の初代藩主であった細川忠利が病弱のため食が細く、
それを見かねた耶馬溪羅漢寺の和尚が、
漢方の食材として増血効能があるレンコンを食べさせようと、
和辛子味噌を穴に詰め、油できつね色に揚げたレンコンを
藩主の食膳に出したところ、好んで食べたと伝えられています。

レンコンの切り口が細川家の家紋である九曜(くよう)紋にも似ていたため、
忠利公は辛子レンコンを門外不出の料理とし、
調理法を秘伝としました。

明治維新後にその製法が解禁になると、
レンコンがこの地方でよく穫れるということも相まって、
辛子レンコンは、熊本の名産品となりました。

レンコンとは、蓮(はす)の根=蓮根と書きますが、
実際は、蓮の地下茎が肥大したものです。

輪切りにした時に丸い空洞が並んで、向こうが良く見えるため、
「先の見通しが良い」という縁起を担ぐ
おせち料理に欠かせない食材です。

今では一年中流通しているレンコンですが、
秋口に収穫される新レンコンは、
繊維が柔らかく、あっさりとしてサラダなどの生食に合います。

また、晩秋から冬に穫れるものは粘りが出て、甘味も増すため、
煮物料理や揚げ物などの加熱調理で美味しく食べられます。

レンコンの魅力は、同じ食材であっても調理法によって
歯ざわりの良さと、ネットリした粘りという違った食感を
楽しめるところです。

シャキシャキとした歯ざわりを楽しむには、
冷水につけてアクを抜き、酢水に浸します。

これでレンコンが持っている粘り成分のムチンを抑えることができます。

断面の穴の色が黒ずんでいる場合は、
酢を少し多めに入れた水の中に30分くらい浸しておくと
真っ白になります。

冷水だけの場合でも、概ね黒色止めは出来ます。

お酢が入っていない分、もちもちした食感が残るので、
煮物料理などの場合に向いています。

レンコンの粘り成分であるムチンは、粘膜を潤し、胃壁を保護します。

たんぱく質分解酵素も含むので、たんぱく質を無駄なく吸収できます。

また、ビタミンCも豊富ですから、疲労回復、かぜの予防に効果があります。

黒くなる原因であるレンコンのアクには、ポリフェノール類が含まれています。

ポリフェノールには、消炎止血作用があるので、
胃潰瘍や十二指腸潰の下血や喀血を止める効果があります。


炭酸と二酸化炭素

動物は呼吸をすることで、体内に酸素を取り込んで、
二酸化炭素を体外に排出します。

酸素の分子式はO2(オーツー)、
二酸化炭素の分子式は、CO2(シーオーツー)です。

体中に取り込まれた酸素は、血液に溶け込み、
全身に運ばれます。

その酸素によって細胞の中あるミトコンドリアが化学反応を起し、
活動のためのエネルギーを生成します。

エネルギーを生成する過程で発生した二酸化炭素は、
酸素と交換された後、血液に取り込まれて、
肺に送り戻され、再度酸素と交換を繰り返し、
呼吸によって外へ排出されます。

二酸化炭素は、燃焼に伴う排出物ということです。

石油や石炭など化石燃料の大量使用によって、
空気中の二酸化炭素濃度が上がり、
その結果、地球が温暖化の方向へと進みつつあるということが、
世界的な問題となっています。

このように気体の二酸化炭素は、
やっかいな存在です。
(植物にとっては、光合成に不可欠の物質ではありますが…。)

気体の状態の二酸化炭素を、炭酸ガスとも呼びます。

炭酸ガスが個体になるまで冷却されるとドライアイスになります。

また炭酸ガスが水に溶けこむと炭酸水となります。

分子式は、H2CO3(エイチツーシーオースリー)です。

空中に浮遊する炭酸ガスは、ヒトにとってあまり役に立っていませんが、
炭酸水は、少し事情が変わります。

そのひとつが血行促進です。

炭酸泉で有名な大分県竹田市の長湯温泉には、

炭酸の含有率が市販の炭酸入浴剤よりも高濃度と言われる
「ラムネ温泉」があります。(※1)

二酸化炭素(炭酸ガス)が皮膚付近の毛細血管に沁みこむことによって、
血液中の二酸化炭素の濃度が上昇します。

そのため増えた分の二酸化炭素を早く排出しようと血流が増え、
血液の循環が促されます。

炭酸泉に入浴することで、冷え性、高血圧、肩凝りや血行障害の改善など
幅広い効能が期待できます。

※1 ラムネ温泉の炭酸濃度
竹田市の観光情報によると、長湯温泉の炭酸濃度は、
大手化学メーカー花王の炭酸入浴剤と比較した場合、
7倍以上と公式に認めています。


ニュートンと落ちないリンゴ

フランスの哲学者ボルテールの著書”Essay on Epic Poetry”(1727年発行)の中に、
万有引力の法則を発見したニュートンについて書かれた記述があります。

その内容とは、ニュートンの姪に聞いた話として、
ニュートンが庭仕事をしている時に、
リンゴの木からリンゴの果実が落ちるのを見て、
重力に関する発想(アイディア)を見出したというものです。

この逸話はその後、様々な解釈が付けられながらも、
引力という概念を理解するのに、大変分かりやすい例であったため、
伝聞として多くの人に語られることになります。

さて、話は現代の日本に戻るのですが、
1991年(平成3年)9月28日、
台風19号が風速50m以上の勢力を保ったまま、
青森県を襲いました。

この台風は九州でも農作物に甚大な被害を与えましたが、
青森県においても、リンゴの木に大きな被害を与えました。

この台風の影響で収穫前のリンゴの9割が落ち、
栽培農家は途方に暮れました。

しかし、若いリンゴ農園経営者から
ユニークな提案が出されます。

それは発想の転換です。

9割のリンゴは落ちてしまったが、
残り1割のリンゴは落ちなかった。

つまり、暴風雨という困難にさらされながらも、
落ちなかったリンゴは、
困難にしぶとく、縁起が良いリンゴだという発想です。

早速、縁起物の落ちないリンゴは、
神社で販売されました。

ユニークなリンゴは、
新聞やテレビでも報道され、
全国的に有名にもなりました。

この落ちないりんごは、
1個1000円という高値で売られたのですが、
受験を控えた学生などの縁起物として
瞬く間に完売し、
落ちてしまったリンゴの売上げ分をも
カバーすることができました。

その後、落ちないリンゴの販売事業は法人化され、
主にインターネットを通じ、産地直送志向の顧客を対象に、
リンゴ販売を行なっています。


鼻水と涙の関係

11月になると、しばらくお蔵入りしていた石油ストーブを出して、
本格的な寒さがやって来る前に試運転を…、と考えている方も少なくないでしょう。

何気なく外に出てみると、
思いのほか空気が冷たくて、
くしゃみをしてしまうことがあります。

くしゃみをすると鼻水も一緒に出てしまうことがありますが、
これは鼻水というよりは、涙の一部なのです。

悲しい時の涙や嬉し涙、悔し涙など、
涙がでるときにセットのように鼻水が出て、
ティッシュで鼻をかみながら…、
ということを経験された方は多いはずです。

もともと涙は、感情が高まった時だけに出るのではありません。
普段から涙は、上瞼にある涙腺から少しづつではありますが
常に流れ出ています。

眼球につくホコリなどを涙で洗い流し、
角膜などが傷つかないように保護しているのです。

成人の場合、一日に0.5~1mlほどの涙を流しています。

普段ほとんどの涙は、眼球の表面から蒸発し、
残りについては、鼻涙腺という細い管を通じ、
目から鼻へと流れています。

流れる量はわずかであるため、
ほとんど気づくことはありません。

しかし、感情が高ぶることで自律神経が刺激され、
涙腺から大量の涙が放出されると、
目からばかりでなく鼻涙腺を通じて
涙は鼻からもあふれだすことになります。

したがって、泣いた時に出る鼻水は、
風邪をひいた時に出る鼻水とは出どころが違うということになります。

泣いた時に出る鼻水が、サラサラとしているのは、
このような理由があるためです。


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