桜の花と樹の命

桜の花が開花したという便りが
届いたかと思う間もなく、
満開となりました。

百人一首に、
『ひさかたの 光のどけき 春の日に
しずこころ(静心)なく 花の散るらむ』(紀友則)
という有名な歌があります。

桜の花が、散り急ぐ様子を惜しむ歌とされていますが、
桜の花が咲く季節になると、
「いつ咲くのか」「見頃はいつか」「いつまで咲いているのか」
と、まさに落ち着きをなくしてしまうのは、
私たち人間側のようです。

一斉に咲き誇った花が散ってしまうと、
青々とした葉が生い茂りますが、
実を見かけることはあまりありませんね。

桜の木には、様々な種類がありますが、
全国に広く植えられて、桜並木になっているのは、
ソメイヨシノと言われる品種です。

ソメイヨシノは、
『オオシマザクラ』と『エドヒガシ』という2つの野生種から、
観賞用として品種改良されたものです。

ヤマザクラなどの他の品種の台木に、
ソメイヨシノの枝を短く切った穂木をつなぐという
接ぎ木という方法で、大量生産されました。

穂木は、元々一本の木なので、
ソメイヨシノは、みな同じDNAをもつ
クローン植物ということになります。

桜は、同じ個体では、
受粉しないという性質を持っているため、
たとえ何百本という桜が並んでいても、
実はなりません。

古くから、日本人が愛してやまない桜の花は、
まさに日本のシンボルであり、
花見という文化も、広く世界に認知され始めています。

しかし、ソメイヨシノは、菌に弱く、
樹齢40年を超えると樹勢衰退の危険度が増し、
寿命が60年しかないという説もあります。

人々を楽しませるために植えられた桜の木が、
大きく育つと通行の邪魔になるからと
枝を切られるのはよくあることです。

また、心無い花見客によって、
枝を折られたり、根を踏み荒されたりと
満身創痍の状態で踏ん張っている状態なのかも知れません。

樹木の寿命は、周囲の環境により左右されます。

もともと人間の手によって
生み出されたソメイヨシノの桜の木。

枯らさないように、大切に守り育てるのは、
私たちの使命なのではないでしょうか。


一覧に戻る